PICK UP

2025.05.27

レビュー

燃え盛るかまどの中から若返って転生!?  ヘンゼルとグレーテルの魔女はやり直したい

『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる魔女が、犯した罪を償うために転生!?
その前に、グリム童話ではどんなお話だったかを簡単に説明すると……。

森に置き去りにされたヘンゼルとグレーテルは、お菓子の家を見つけますが、それは人喰い魔女が住む恐ろしい家でした。
ヘンゼルは犬小屋に閉じ込められ、グレーテルは食事の支度をさせられます。
あるとき魔女が「かまどの火加減を見な」と言うと、グレーテルは「どうやって見るの?」と尋ねます。
「こうやって見るんだよ」と魔女がかまどに首を突っ込んだその瞬間、グレーテルは魔女の背中を押して、かまどに閉じ込めてしまったのです。

その断末魔、『お菓子の家の魔女はやり直したい』のオランジェは、こう叫びます。
「神様、助けておくれよ……こんな最期あんまりだよおお!」。
すると神様が現れ、チャンスを与えられます。
「蘇ったら己の罪を自覚し償いなさい」と。
こうして転生したオランジェですが、かつて住んでいたお菓子の家(ヘクセンハウス)は、カフェの開店準備を進める男性の手に渡っていたのです。
その主の名は――ヘンゼル・ハインリヒ!!

赤い瞳のせいで、オランジェが魔女であることはすぐにバレてしまいますが、彼女にはある特技がありました。それは、お菓子作り!!
さすが、お菓子の家に住んでいただけある! あの家は魔法で作ったのではなく、魔女の手作りだったのか!? ――と妄想が止まりません(笑)。

そこへ、かつて「毒リンゴ」を注文した男がやってきます。
娘が人質として女王に囚われているので、毒リンゴを作ってほしいというのです。

……ん!? 毒リンゴは『白雪姫』では? しかも、白雪姫に毒リンゴを渡したのは継母である女王だったはず、いや私の記憶違いか!? ──と一瞬頭がバグります(笑)。
でも、それくらい毒リンゴを巡る裏話がよくできていて、「もしかしたら、そんな出来事があったかも~」と思えてくるのです。
自分のせいで人を不幸にしたのだと反省したオランジェは、特別な毒リンゴとお菓子を作り、見事に解決へと導きます。

こんなふうにグリム童話の登場人物が、次々とオランジェを訪ねて来るのですが、第2話に登場するのは、『眠れる森の美女』の元になったといわれる『いばら姫』の魔女。

王女の誕生を祝う宴に呼ばれなかったことを恨み「死の呪い」をかけた魔女が、オランジェの“生涯唯一の友”カーラとして登場。お城ごと100年の眠りについている間、カーラは何をやっていたのかが語られます。

物語の悪役が、どんなふうに過ごしていたのかなんて考えたこともなかったので、このエピソードは新鮮でした。
自分のせいでカーラに寂しい思いをさせたと気づいたオランジェは、その償いをするために動きます。
         
続く第3話は『赤ずきんちゃん』が、狼を狙うハンターとして登場。そして、オランジェが償いをする相手は狼です。

この2つの話に出てくるエピソードは、どちらもちょっぴり切ないです。
ヘンゼルとオランジェのテンポのいい掛け合いの中に、こうした切ない話が入ることで、より作品に深みが加わったのではないかと感じます。
ついついお話の面白さに目が行きがちですが、表に見えていることと、真実は必ずしも同じではない――そんな当たり前のことに改めて気づかされました。
そしてこの物語は、“やり直しは誰にでもできる”と言っているような気がします。
まさに神様の言葉、「己の罪を自覚し、償いなさい」を笑いと優しさで見せてくれるのです。
次はどんなグリム童話の裏側が描かれるのか。
そして、ヘンゼルとオランジェの距離がどう変化していくのか、続きを楽しみにしたいです。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

おすすめの記事

2025.04.18

レビュー

オッサンが異世界の姫に転生!? 謎食材と魔物だらけの異世界“限界”グルメ!

  • 異世界・転生
  • グルメ
  • ほしのん

2025.02.16

レビュー

圧倒的反響のお弁当ファンタジー! 謹慎中の「神」が始めた弁当屋さん

  • ファンタジー
  • 料理
  • 花森リド

2023.10.05

レビュー

中世ヨーロッパで騎士に憧れる少年が料理番となって生き抜く。歴史×グルメファンタジー!

  • エンタメ
  • 黒田順子

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET

OSZAR »